青幡佐草日古命は、出雲で麻を蒔いたと伝わる、農耕と土地にゆかりの深い神です。八重垣神社の宮司を務める佐草氏の祖神としても祀られています。短い神話に残された働きから、家族関係、各地の神社で受け継がれる信仰まで紹介します。
青幡佐草日古命は何の神様?
青幡佐草日古命は、麻の栽培にかかわる出雲の神です。奈良時代の地誌『出雲国風土記』には、須佐之男命の子として登場し、土地の名の由来を伝える神話にその名を残しています。
この神に結びつく土地は、意宇郡の大草郷と、大原郡の高麻山です。大草郷の名は神が鎮座することにちなみ、高麻山の名は山の上に麻を蒔いたことにちなむとされています。人々が暮らす土地と、そこで作物を育てる営みの両方に結びついた神です。
平安時代には、朝廷から神に授けられる位である「神階」も受けています。851年に従五位下となり、865年に従五位上、871年に正五位下、878年には正五位上へ進みました。古代から公的な祭祀の対象となっていたことが、神名を伴う記録に残っています。
現在も出雲の神社で祀られ、宮司家の祖神や高麻山にゆかりの神として信仰されています。山形県には病気除けの願いを集める神社もあり、土地ごとに異なる信仰が伝わっています。
青幡佐草日古命の別名・読み方
青幡佐草日古命は「あおはたさくさひこのみこと」と読みます。「佐草」を「佐久佐」、「日古」を「日子」や「丁壮」などと書く異表記があります。
| 区分 | 別名・異表記 |
|---|---|
| 風土記などに見える表記 | 青幡佐久佐丁壮命、青幡佐草日子命 |
| 古代の神階記録に見える表記 | 青幡佐草壮丁命、佐草神 |
| 神社での表記・その他の異表記 | 青幡佐久佐日古命、青幡佐草彦神、青幡佐草比古神 |
八重垣神社では青幡佐久佐日古命、山形県高畠町の青麻神社では青幡佐草比古神という名で祀られています。「佐草神」の読みは「さくさのかみ」です。
神名の意味には、「青幡」を青々とした山、「佐久佐」を幸いをもたらす草とみる説があります。大草郷の「大草」を「さくさ」と読む訓みもあり、神名と地名のつながりが伝わっています。
青幡佐草日古命の御神格・ご利益・ご神徳
青幡佐草日古命には、麻を育てる神、土地に鎮まる神、宮司家の祖神という姿があります。具体的な願いごとは神社ごとに伝わり、高畠町の青麻神社では中風除け、八重垣神社では神社全体の信仰として縁結びなどが知られています。
青幡佐草日古命の御神格
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 御神格 | 麻の栽培にかかわる神、出雲の土地に鎮まる神、佐草宮司家の祖神 |
麻は、布や糸の原料になる植物です。山に麻を蒔く神話には、食べ物を作る田畑とはまた違う、暮らしの材料を育てる仕事が描かれています。土地を開き、そこで生活を営むための作物を育てる神としても解釈されています。
祖神としての信仰は、神話に出てくる働きとは別に、神を祀る家の歴史と結びついています。八重垣神社では、青幡佐久佐日古命を佐草宮司家の先祖神として伝えています。
青幡佐草日古命のご利益・ご神徳
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ご利益 | 中風除け・病気平癒(高畠町の青麻神社)、縁結び・厄除け・子授け・安産(八重垣神社全体の信仰) |
| ご神徳 | 麻を育てる働き(高麻山の神話)、病を除く霊験(高畠町の青麻神社の社伝) |
高畠町の青麻神社には、病気になった母のために、伊達家の家臣が21日間の願掛けをしたという伝承があります。満願の夜に神のお告げを受け、母の病が快方へ向かったと伝えられ、中風除けの信仰へつながっています。ここでいう「中風」は、手足の麻痺などを伴う病を指した古い言葉です。
一方、八重垣神社の縁結びは、主祭神である須佐之男命と稲田姫命の結婚の伝承に由来します。青幡佐草日古命も同じ社で祀られていますが、縁結びの物語の中心となるのは、この夫婦神です。ご利益は、こうした各社に伝わる祈りとして受け継がれています。
青幡佐草日古命の家系図・関係する神々
青幡佐草日古命の父は須佐之男命です。『出雲国風土記』には、ほかにも須佐之男命の子とされる神々が登場し、共通の父を持つ兄弟姉妹としてつながっています。
| 関係 | 神名・説明 |
|---|---|
| 父 | 須佐之男命。大草郷と高麻山の両方の伝承で、青幡佐草日古命の親神とされています。 |
| 兄弟姉妹 | 都留支日子命、国忍別命、磐坂日子命、衝杵等乎而留比古命、八野若日女命、和加須世理比売命。同じ『出雲国風土記』で須佐之男命の子とされる神々です。 |
兄弟姉妹の神々も、出雲各地の地名の由来に登場します。都留支日子命は山口郷、国忍別命は方結郷、磐坂日子命は恵曇郷と結びつき、八野若日女命や和加須世理比売命は大穴持命との婚姻にかかわる話に登場します。
風土記には、青幡佐草日古命の母、配偶神、子の名や、兄弟姉妹の生まれた順序は記されていません。佐草氏の祖神という伝承は、八重垣神社で受け継がれる宮司家の由緒です。
青幡佐草日古命の神話・伝承
『出雲国風土記』の高麻山の伝承は、青幡佐草日古命が山の上に麻を蒔き、その名の由来となったという話です。山の峰に神の御魂が鎮まることも伝えています。
高麻山に渡した、小さな種
以下は、原典で確認できる出来事をもとに、現代の読み物として意訳・再構成しています。原文の逐語訳ではありません。
山の上で、青幡佐草日古命は手を閉じた。風が指の隙間を抜け、握った麻の種が掌の中でかすかに動く。北では樫と椿の葉が鳴り、東から南、西へと広がる野が遠くまで見渡せた。
膝をつき、土に触れる。指先についた土を払いもせず、神はもう一方の手をゆっくりと開いた。「ここに、蒔こう」
種をつまみ、土へ落とす。掌にあるときには確かな重みがあったのに、地面へ渡せば一粒はひどく小さい。それでも青幡佐草日古命は手を止めず、もう一粒、また一粒と麻を蒔いた。
最後の種を渡すと、空になった掌をしばらく見つめた。何も握っていない手を風にさらし、神は静かに息をつく。足もとの土には、さっきまで自分の手の中にあった種がある。
この山は、高麻山と呼ばれることになる。麻を蒔いた神の御魂は、その峰に坐す。風がまた樫と椿の葉を揺らし、種を受けとめた土の上を通り過ぎていった。
青幡佐草日古命ゆかりの神社・祀られている神社
青幡佐草日古命のゆかりの地は、松江市の佐草・大草の地域と、雲南市の高麻山周辺にあります。山から麓や里の神社へ祭祀が移された場所もあり、古い伝承が現在の境内社に受け継がれています。出雲の外では、山形県高畠町の青麻神社にも祀られています。
八重垣神社|宮司家の祖神として祀られる社
島根県松江市佐草町にある八重垣神社は、青幡佐久佐日古命を佐草宮司家の先祖神として祀っています。主祭神の素盞嗚尊・稲田姫命、大己貴命とともに、その名が祭神として掲げられています。
この地には、稲田姫命が大蛇の難を避けて身を隠したという佐久佐女の森があります。5月3日の身隠神事では、姫の避難にちなみ、本殿から奥の院へ神輿が進みます。12月15日には姫を本社へ迎える還幸祭が行われ、夫婦神の伝承と、佐草の神を祀る宮司家の由緒が同じ神社に伝わっています。
六所神社|大草の地に残る佐久佐の神の信仰
島根県松江市大草町の六所神社でも、青幡佐久佐日古命が祀られています。神名と結びつく大草の地に鎮座し、出雲国の神々をまとめて祀る「総社」として知られる神社です。
境内とその周辺には古代の出雲国府の跡があり、政治と祭祀が営まれた場所の歴史が残っています。六所神社には御田饌神事という古い祭りが伝わり、勅使の行列と儀式を描いた絵も文化財として伝えられています。
加茂神社の高麻八幡宮|山の神を里で祀る
島根県雲南市加茂町加茂中の加茂神社には、高麻山の青幡佐草日古命を祀る高麻八幡宮が境内にあります。高麻山の北西側に暮らす人々が、神の御魂を慕って祀ってきた社です。
明治12年には山頂へ戻す願いが認められ、その後は山の北西側の山中へ移され、祭祀が続けられました。令和に入って加茂神社の境内へ移され、現在は本殿後方の西側に鎮座しています。山の上に麻を蒔いた神の伝承が、里の神社で受け継がれています。
青幡佐草日古命が祀られている主な神社
このほかにも、次の神社で祀られています。青麻神社は中風除けの信仰を伝える社で、例祭日は4月17日です。十九社神社では、境内の金刀比羅神社に高麻八幡宮が明治7年に合祀されました。
| 神社名 | 住所 |
|---|---|
| 青麻神社 | 山形県東置賜郡高畠町 |
| 十九社神社 境内・金刀比羅神社 | 島根県雲南市 |
