高龗神は、雨や水を司り、山の水源を守る龍神として信仰される神です。京都の貴船神社や奈良の丹生川上神社上社で祀られ、土地によっては黒龍大神とも呼ばれています。神名の意味や闇龗神との関係、火の神から生まれる神話、現在のご利益とゆかりの神社を紹介します。
高龗神は何の神様?水と雨を司る龍神
高龗神は、雨を降らせ、長雨を止め、人や田畑に必要な水をもたらす神です。読み方は「たかおかみのかみ」で、「龗」は水を司る龍を表します。「高」は山の峰を指すとされ、山上の水神として敬われてきました。
山に降る雨は川や湧き水となり、田畑や暮らしを支えます。水源を守る高龗神への信仰は、農作物の実りを願う祈りと深く結びつき、日照りと長雨のどちらにも向き合ってきました。貴船神社や丹生川上神社には、朝廷が雨や晴れを祈った歴史が伝わっています。
『日本書紀』に収められた別伝では、火の神・軻遇突智が斬られ、その身体の一部から生まれます。貴船神社はこの誕生を、火がもたらす災いを水の力で鎮める神の働きと結びつけて伝えています。
現在も雨や農耕に関わる神として祀られ、水の恵みへの感謝が祭りに受け継がれています。商売繁盛や開運の神として信仰される地域もあります。
『日本書紀』の誕生記事には、高龗神が男神か女神かは記されていません。
高龗神の別名・闇龗神との関係
高龗神には、神名の字を置き換えた表記と、各地の信仰の中で使われる呼び名があります。よく知られるものは次のとおりです。
| 区分 | 別名・異表記 |
|---|---|
| 神社で用いられる表記 | 高淤加美神、高龗大神 |
| 黒龍としての呼び名 | 黒龍大神、黒龍大明神 |
高淤加美神は、松江市の貴舩神社でも用いられる祭神表記です。高龗大神は丹生川上神社上社や高龍神社の祭神名で、「大神」は神を敬う呼び方に当たります。
黒龍大神は、岐阜市の伊奈波神社境内にある黒龍神社の呼び名です。福井市舟橋の黒龍神社では、高龗大神を黒龍大明神、闇龗大神を白龍大明神として祀っています。こうした神社では黒龍として信仰されていますが、『日本書紀』の誕生場面に龍の色の説明はありません。
高龗神の同一神説について
・闇龗神との説:闇龗神は「くらおかみのかみ」と読み、谷の水を司る龍神とされます。『古事記』では闇淤加美神と書き、火之迦具土神を斬った剣の柄に集まった血が、伊邪那岐命の指の間から流れ落ちたときに生まれます。
このように、『日本書紀』で高龗神が身体の一部から生まれる話とは、誕生の描き方が異なりますが、貴船神社では、高龗神と闇龗神は名前が違っても同じ神と伝えています。また、雲南市の高龗神社では二柱を主祭神として祀っています。
・須佐之男命との説:須佐之男命を高龗神が同一神ではないかという噂もあります。しかし、『古事記』『日本書紀』には2柱を別名とする記述はありません。須佐之男命の系譜に登場するのは、名の似た水神・淤迦美神の娘です。
・瀬織津姫神との説:瀬織津姫神についても、高龗神と同じ神とみる説があり、八戸の龗神社の解説でも紹介されています。※『大祓詞』の瀬織津姫神は、速い川の流れによって罪や穢れを海へ運ぶ神です。
高龗神の御神格・ご利益・ご神徳
高龗神の信仰の中心には、必要な雨を得て、水の恵みを暮らしに生かしたいという願いがあります。水の量に左右される農耕を支える神として敬われ、地域によっては商売や事業の繁栄も祈られています。
高龗神の御神格
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 御神格 | 水と雨を司る龍神、水源の神、農耕を支える神 |
「龗」の名をもつ水神は、古い文献で山や谷、泉と結びついて登場します。『万葉集』には、丘にいる龗に頼んで雪を降らせたという歌もあります。龍や蛇の姿をとり、雨だけでなく雪も司る神として語られてきました。
高龗神を祀る丹生川上神社上社では、ほどよい雨を降らせ、降り続く雨を止める神の働きを伝えています。農耕を支える水神には、作物を育てる時期に必要な量の水を届ける力が求められました。
高龗神のご利益・ご神徳
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ご利益 | 祈雨・止雨、五穀豊穣、金運・商売繁盛・開運(高龍神社などの信仰) |
| ご神徳 | 雨や水の巡りを司り、命と農作物を養う恵み、水を通じて暮らしを支える働き |
祈雨は雨を求める祈り、止雨は長雨がやむことを求める祈りです。貴船神社では、朝廷から日照りのときに黒い馬、長雨のときに白い馬や赤い馬が奉納されたと伝えています。稲を育てる水が不足しても、雨が続いても実りが損なわれるため、天候が整うことが願われました。
金運や商売繁盛との結びつきが強いのは、新潟県長岡市の高龍神社です。高龗大神を祀り、白蛇を神の使いとして、商いの発展や事業の繁栄を祈る信仰があります。
高龗神の家系図・関係する神々
貴船神社は、高龗神を伊弉諾尊の御子神と伝えています。この伝えによる親子関係は次のとおりです。
| 関係 | 神名・説明 |
|---|---|
| 父(貴船神社の伝え) | 伊弉諾尊。貴船神社では、高龗神をその御子神としています。 |
『日本書紀』神代上の第五段一書第七では、伊弉諾尊が軻遇突智の身体を三つに斬り、その一つが高龗神になります。雷神と大山祇神も、同じ身体から成る神として登場します。この誕生記事には、高龗神の母神・配偶神・子や、三柱の兄弟関係は記されていません。
また、『古事記』には、関連する水神・淤迦美神の系譜があります。娘の日河比売は、須佐之男命の孫である布波能母遅久奴須奴神と結ばれ、その子孫は大国主神へと続きます。もう一人の娘・比那良志毘売は、甕主日子神との間に多比理岐志麻流美神を生みます。
この系譜で娘たちの親として記されるのは淤迦美神です。日河比売たちを高龗神の娘とする説明は、淤迦美神と高龗神を同じ神とみる解釈によります。
高龗神の神話・伝承
『日本書紀』神代上・第五段一書第七には、伊弉諾尊が火の神を斬り、その身体から三柱の神が生まれる話があります。ここでは、高龗神が誕生する場面を描きます。
剣の先に生まれた三柱
以下は、原典で確認できる出来事をもとに、現代の読み物として意訳・再構成しています。原文の逐語訳ではありません。
伊弉諾尊は、腰の剣に手をかけた。目の前には火の神、軻遇突智がいる。柄をつかんだ指に力が入り、爪の先まで痛くなった。
息を吸っても、胸につかえた熱は収まらない。叫ぼうとした口から漏れたのは、短く荒い息だけだった。伊弉諾尊は唇を結び、剣を抜き放った。
刃を振るう。肉を断つ手応えが腕に伝わり、血が飛び散った。剣を返した伊弉諾尊の前で、軻遇突智の身体は三つに斬り分けられた。
ようやく腕が止まった。肩で息をしながら、伊弉諾尊は足元に目を落とす。剣を振るっていたときには感じなかった重さが、手首にのしかかった。
その目の前で、三つに分かれた身体が変わった。伊弉諾尊は息をのみ、後ずさりかけた足を止めた。斬り裂いたはずの身体が、それぞれ一柱の神となっていた。
一つは雷神、一つは大山祇神。そして、もう一つは高龗神だった。伊弉諾尊は血に濡れた刃を下げ、生まれたばかりの三柱を見つめた。
喉につかえていた叫びは、もう出てこなかった。柄を握りしめた指が、少しずつほどけていく。血のにおいの中で、荒かった息が静まっていった。
⇒【ウィキソース】『日本書紀』巻第一・高龗神誕生の原文はこちら
高龗神ゆかりの神社・祀られている神社
高龗神は、雨を求める土地や山の水源を大切にする地域で祀られてきました。貴船神社や丹生川上神社上社には朝廷の祈雨・止雨の歴史が伝わり、各地の神社では農耕や暮らしに根ざした祈りが続いています。
貴船神社|京都府京都市
京都市左京区、貴船川の上流に鎮座する神社で、本宮と奥宮に高龗神を祀っています。創建の年代は明らかではありませんが、天武天皇の時代に社殿を造り替えたと伝える古社です。
毎年3月9日の雨乞祭では、農作業が本格化する前に、その年の適度な雨と秋の豊作を祈ります。毎月の初辰祭では、辰の日の「辰」と「発達」を重ね、国や人々の幸福、さまざまな物事の発展を祈ります。
丹生川上神社上社|奈良県吉野郡川上村
吉野の山中に鎮座し、高龗大神を主祭神として祀る神社です。675年、吉野の深山に社を建てて祀れば、ほどよい雨を降らせ、長雨を止めるという神託によって創建されたと伝えています。
現在の社地へ移ったのは、大滝ダムの建設に伴う1998年3月です。移転前の境内の発掘調査では、奈良時代後半から平安時代前期ごろに祭場として使われ、平安時代末期から鎌倉時代初めには社殿が建っていたことが分かりました。
春の龍神祭は、この遷座を記念する祭りです。秋の例大祭では、五穀豊穣への感謝を捧げ、神輿の渡御などが行われます。
高龍神社|新潟県長岡市
長岡市蓬平町、太田川上流の山あいに鎮座し、高龗大神を祀っています。龍神に仕える白蛇の信仰とともに、商売繁盛や家内安全、五穀豊穣を願う参拝者を集めています。
由緒では、1390年、戦で負傷した高野木民部永張が山中で道に迷い、龍神に助けられたことが信仰の始まりとされます。この話を縁に祠が建てられ、現在地の社殿は1920年に建立されました。
参道には118段の石段があり、その上に本殿が建っています。白蛇の好物とされる生卵やお神酒を供える習わしも、この神社の特色です。
高龗神が祀られている主な神社
このほかにも、高龗神や高淤加美神の名で祀る神社、黒龍の呼び名を伝える神社があります。境内社に祀る例も含めて紹介します。
| 神社名 | 住所 |
|---|---|
| 大山阿夫利神社 | 神奈川県伊勢原市 |
| 黒龍神社(舟橋) | 福井県福井市 |
| 黒龍神社(伊奈波神社境内) | 岐阜県岐阜市 |
| 室生龍穴神社 | 奈良県宇陀市 |
| 高龗神社(三刀屋町) | 島根県雲南市 |
| 貴舩神社(菅田町) | 島根県松江市 |
