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素戔嗚尊(すさのおのみこと)は何の神様?ご利益・家系図・出雲神話 | 神様図鑑

素戔嗚尊スサノオは、天照大御神アマテラス・月読命ツクヨミとともに三貴子と呼ばれる神です。『古事記』では海原を治めるよう命じられ、高天原では激しい乱行を重ねる一方、出雲では八俣大蛇を倒して櫛名田比売クシナダヒメを救う英雄として活躍します。

後世には祇園信仰や天王信仰とも結びつき、疫病や災厄を鎮める神として全国へ信仰が広がりました。荒々しさと人を救う強さの両方を持ち、日本神話の中でも特に多くの物語と信仰を持つ神です。

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目次

素戔嗚尊スサノオは何の神様?

素戔嗚尊スサノオは、海原の統治を命じられた三貴子の一柱で、出雲神話では八俣大蛇を倒す英雄として描かれる神です。後世には疫病や災厄を鎮める神としても広く信仰されました。

『古事記』では、黄泉の国から戻った伊邪那岐命イザナギが禊をした際、鼻を洗ったところから建速須佐之男命スサノオが生まれます。同じ禊で左目から天照大御神アマテラス、右目から月読命ツクヨミが生まれ、三柱はそれぞれ国を治める役目を与えられました。

素戔嗚尊スサノオに与えられたのが海原です。しかし素戔嗚尊スサノオは母のいる根之堅州国へ行きたいと泣き続け、その激しさによって山が枯れ、川や海にも影響が出たと語られます。高天原へ向かう場面でも山川が震え動くほどの勢いを見せるため、暴風雨や嵐を神格化した神とする説があります。

高天原では、田の畔を壊し、溝を埋め、神聖な御殿を汚すなどの乱行を重ねます。さらに機織りをしていた建物へ皮を逆さに剥いだ馬を投げ込み、天照大御神アマテラスが天岩戸へ隠れる大事件へつながりました。

一方、地上へ追放された後の素戔嗚尊スサノオは、出雲で違った姿を見せます。毎年娘を食べていた八俣大蛇を知恵と武力で倒し、最後の一人となった櫛名田比売クシナダヒメを救いました。

『出雲国風土記』にも素戔嗚尊スサノオはたびたび登場します。須佐の土地に自らの名を付けた伝承などが残り、出雲では土地や稲田と深く結びついた神として信仰されていたことがうかがえます。

後世になると、素戔嗚尊スサノオは牛頭天王ゴズテンノウと結びつきます。京都の八坂神社を中心とする祇園信仰や各地の天王信仰では、疫病や災厄を鎮める神として信仰されました。

神話の中では荒々しい力を振るう神、出雲では怪物を倒す英雄、後世の信仰では災厄を退ける神。素戔嗚尊スサノオには、時代や伝承によってさまざまな姿が伝わっています。

素戔嗚尊スサノオの別名|スサノオノミコトの漢字は数多くある

スサノオノミコトは、古い文献によって漢字表記が大きく変わります。現在よく見かける「素戔嗚尊スサノオ」「須佐之男命スサノオ」のほかにも、数多くの表記が残っています。

区分 別名・異表記
『古事記』 建速須佐之男命スサノオ、須佐之男命スサノオ、須佐能男命スサノオ、速須佐之男命スサノオ
『日本書紀』 素戔嗚尊スサノオ、神素戔嗚尊スサノオ、速素戔嗚尊スサノオ
『出雲国風土記』 神須佐乃袁命スサノオ、神須佐能袁命スサノオ、神須佐乃乎命スサノオ、須佐乎命スサノオ、須佐能袁命スサノオ、須佐袁命スサノオ、須作能乎命スサノオ、須佐能乎命スサノオ
『備後国風土記』逸文 速須佐雄能神スサノオ
『古語拾遺』 素戔嗚神スサノオ
『先代旧事本紀』 素戔烏尊スサノオ、建速素戔烏尊スサノオ、速素戔烏命スサノオ、神素戔烏尊スサノオ、建素戔烏尊スサノオ、速建素戔烏尊スサノオ、速素戔烏尊スサノオ
『新撰姓氏録』 素佐能雄命スサノオ、素戔烏命スサノオ
神社などで見られる表記 素盞嗚尊スサノオ、素盞嗚命スサノオ、建速素盞嗚尊スサノオ、神素盞鳴尊スサノオなど

『古事記』では「須佐之男命スサノオ」という表記が多く、最初に登場する神名は「建速須佐之男命スサノオ」です。「建」は勇ましさ、「速」は勢いの激しさを表すとされています。

『出雲国風土記』では「須佐」の後に「袁」「乎」などを使った表記が数多く登場します。同じスサノオを表す名前でも、成立した文献や時代によって使われる文字が大きく違っています。

牛頭天王ゴズテンノウと称されることもありますが、もともと素戔嗚尊スサノオとは別の神です。神道と仏教が混ざり合う神仏習合の中で両者が重ねられ、祇園信仰では同じ神として扱われるようになりました。八坂神社でも、明治以前には素戔嗚尊スサノオが牛頭天王ゴズテンノウとも称されていました。

また、熊野本宮大社では、素戔嗚尊スサノオを家都美御子大神ケツミミコとした表記で祀っていますが、同じ神様です。

素戔嗚尊スサノオの御神格・ご利益・ご神徳

素戔嗚尊スサノオは、強い力で災いや敵を退ける神として信仰されています。特に祇園信仰や天王信仰では疫病除け・厄除けとの結びつきが強く、櫛名田比売クシナダヒメとの神話から良縁や家庭に関わる信仰を持つ神社もあります。

素戔嗚尊スサノオの御神格

御神格 海原の統治を命じられた神、荒ぶる力を持つ神、出雲神話の英雄神、疫病・災厄を鎮める神、出雲で土地・稲田に結びつく神

『古事記』では伊邪那岐命イザナギから海原の統治を命じられます。激しく泣くことで自然に大きな影響を与え、高天原へ上るだけで山川や国土が揺れ動く描写から、暴風雨の神と見る説も生まれました。

出雲へ降った後は、八俣大蛇を倒して人々を救う英雄として活躍します。同じ神でありながら、高天原の荒々しい姿と出雲での英雄的な姿が続けて描かれているのが素戔嗚尊スサノオの大きな特徴です。

『出雲国風土記』では記紀とは違った姿も伝わっています。須佐をはじめ出雲各地の土地と結びつき、稲田や土地を守る神として信仰された面もうかがえます。

素戔嗚尊スサノオのご利益

ご利益 厄除け、疫病除け、災難除け、良縁・縁結び、家内安全など。神社によって商売繁盛、五穀豊穣、海上安全、子授け・安産など

特に広く伝わるのが、疫病や災厄を退ける信仰です。

『備後国風土記』逸文に伝わる蘇民将来の説話では、旅をしていた素戔嗚尊スサノオを、貧しい蘇民将来が手厚くもてなします。後に素戔嗚尊スサノオは蘇民将来の子孫を疫病から守ることを告げ、この伝承が茅の輪や「蘇民将来子孫也」と記された護符へつながりました。

八坂神社の祇園祭でも蘇民将来の伝承が受け継がれています。祭りそのものも疫病や災厄が鎮まることを願って始まったもので、素戔嗚尊スサノオの疫病除け信仰を現在まで伝えています。

良縁や縁結びの信仰は、八俣大蛇から櫛名田比売クシナダヒメを救い、二柱が夫婦となった神話と結びついています。須佐神社や八重垣神社などでは、良縁や夫婦・家庭に関わる祈りが行われています。

素戔嗚尊スサノオのご神徳

ご神徳 災厄・疫病を鎮める力、厄難から人を守る力、良縁・夫婦円満、子孫繁栄など

素戔嗚尊スサノオには、非常に強い力を持つ神としての姿があります。その力は八俣大蛇を倒す武勇として語られ、後世の信仰では疫病や災害など、人の力だけでは防ぎにくい災いを退ける力として敬われました。

蘇民将来の伝承と祇園信仰では、人を疫病から守る神としての姿が前面に出ています。櫛名田比売クシナダヒメとの結婚を伝える神社では、夫婦の縁や子孫繁栄に関わるご神徳も伝えられています。

素戔嗚尊スサノオの親・妻・子孫は?家系図・関係する神々

素戔嗚尊スサノオの親や子孫は、『古事記』と『日本書紀』で系譜が異なる部分があります。『古事記』では伊邪那岐命イザナギの禊から生まれ、櫛名田比売クシナダヒメ・神大市比売カムオオイチヒメを妻とし、その子孫は大国主神オオクニヌシへ続きます。

関係 神名・説明
親神 伊邪那岐命イザナギ。『古事記』:鼻を洗った際に誕生。『日本書紀』:伊弉冉尊イザナミと伊弉諾尊イザナギの子
兄弟姉妹 天照大御神アマテラス、月読命ツクヨミ。『古事記』:伊邪那岐命イザナギの禊から生まれる三貴子
妻 櫛名田比売クシナダヒメ、神大市比売カムオオイチヒメ
子 八島士奴美神ヤシマジヌミ、大年神オオトシ、宇迦之御魂神ウカノミタマ、須勢理毘売スセリビメなど
誓約で子となった神 多紀理毘売命タギリビメ、市寸島比売命イチキシマヒメ、多岐都比売命タギツヒメの宗像三女神ムナカタサンジョシン
主な子孫 大国主神オオクニヌシ(大国主命オオクニヌシ)。『古事記』では六世の孫

素戔嗚尊スサノオの奥さんとして最も有名なのが櫛名田比売クシナダヒメです。八俣大蛇に食べられる最後の一人となっていたところを素戔嗚尊スサノオに救われ、その後に夫婦となります。

二柱の間に生まれたのが八島士奴美神ヤシマジヌミです。『古事記』ではここから六世にわたって系譜が続き、最後に大国主神オオクニヌシが生まれます。

その流れは、素戔嗚尊スサノオ → 八島士奴美神ヤシマジヌミ → 布波能母遅久奴須奴神フハノモジクヌスヌ → 深淵之水夜礼花神フカフチノミズヤレハナ → 淤美豆奴神オミヅヌ → 天之冬衣神アメノフユキヌ → 大国主神オオクニヌシとなっています。

もう一柱の妻が神大市比売カムオオイチヒメです。山の神・大山津見神オオヤマヅミの娘で、素戔嗚尊スサノオとの間に大年神オオトシと宇迦之御魂神ウカノミタマを生みました。

宇迦之御魂神ウカノミタマは食物や稲と深く結びつく神で、後世には稲荷信仰の中心的な祭神として全国で祀られるようになります。

須勢理毘売スセリビメも素戔嗚尊スサノオの娘です。根之堅州国へやってきた大国主神オオクニヌシと出会って結婚し、父である素戔嗚尊スサノオが大国主神オオクニヌシへ与える数々の試練を助けます。

大国主神オオクニヌシとの世代関係は『日本書紀』になると内容が変わります。『古事記』では六世の孫ですが、『日本書紀』には素戔嗚尊スサノオと奇稲田姫クシナダヒメの直接の子とする伝承や、五世・六世の子孫とする伝承があります。

誓約で生まれた宗像三女神ムナカタサンジョシン

天照大御神アマテラスと素戔嗚尊スサノオが行った誓約では、通常の夫婦から子が生まれるのとは違う形で神々が誕生します。

天照大御神アマテラスが素戔嗚尊スサノオの十拳剣を受け取り、噛み砕いて吹き出した霧から、多紀理毘売命タギリビメ・市寸島比売命イチキシマヒメ・多岐都比売命タギツヒメの三女神が生まれました。

『古事記』では、素戔嗚尊スサノオが持っていた剣から生まれたことを理由に、この三女神を素戔嗚尊スサノオの子としています。三柱は宗像三女神ムナカタサンジョシンとして、現在も宗像大社をはじめ各地で祀られています。

素戔嗚尊スサノオと出雲の関係|八俣大蛇・須賀・須佐の地

素戔嗚尊スサノオは、出雲と深い関わりを持つ神です。『古事記』では高天原を追放された後に出雲へ降り、八俣大蛇を倒して櫛名田比売クシナダヒメを救い、その後は須賀に宮を建てたと伝えられています。さらに『出雲国風土記』にも、須佐をはじめ出雲各地に素戔嗚尊スサノオに関する伝承が残っています。

高天原を追放された素戔嗚尊スサノオは、出雲国の肥河上にある鳥髪へ降ります。そこで足名椎アシナヅチ・手名椎テナヅチと櫛名田比売クシナダヒメに出会い、八俣大蛇を倒しました。

その後、櫛名田比売クシナダヒメと暮らす場所を探して須賀へ向かいます。『古事記』では須賀へ着いた素戔嗚尊スサノオが「ここへ来て心がすがすがしい」と語り、その地に宮を建てたとされています。

宮を建てた際には雲が立ち上り、「八雲立つ」から始まる歌を詠みます。現在の須我神社では、この歌を日本で最も古い歌として伝え、「和歌発祥の社」としています。

『出雲国風土記』の須佐郷には、さらに別の伝承があります。素戔嗚尊スサノオがその土地を気に入り、自分の名を木や石へ付けるのではなく土地そのものへ残すとして「須佐」と名付け、自らの御魂を鎮めたと伝えられています。

現在の須佐神社は、この須佐の伝承を受け継ぐ神社です。

『出雲国風土記』では、素戔嗚尊スサノオやその子に関わる地名伝承が出雲各地に残されています。記紀の八俣大蛇退治に加えて、出雲の土地そのものと深く結びついて信仰されてきた姿が伝わっています。

素戔嗚尊スサノオの神話・伝承

素戔嗚尊スサノオには、高天原での乱行、食物の起源に関わる大気都比売神オオゲツヒメの神話、八俣大蛇退治、大国主神オオクニヌシとの物語など多くの神話があります。

その中でも特に有名なのが、出雲で櫛名田比売クシナダヒメを救い、八俣大蛇と戦う物語です。

高天原を追われ、八俣大蛇と戦う

以下は、原典で確認できる出来事をもとに、現代の読み物として意訳・再構成しています。原文の逐語訳ではありません。

高天原を追われた素戔嗚尊スサノオは、出雲国の肥河上、鳥髪の地へ降り立った。天上の世界はもう遠く、目の前にあるのは深い山と、音を立てて流れる川だけだった。風に揺れる木々を見ながら川辺を歩いていると、水面を一本の箸が流れてきた。

箸が自然に山から生えてくるはずがない。上流に人がいる。素戔嗚尊スサノオは川をさかのぼり、やがて人の泣き声を聞いた。

そこにいたのは、一組の老夫婦と若い娘だった。父は足名椎アシナヅチ、母は手名椎テナヅチ、娘は櫛名田比売クシナダヒメという。三人とも顔を伏せ、何かを待つように怯えていた。

「なぜ泣いている」

素戔嗚尊スサノオが尋ねると、老夫婦は震える声で事情を語った。二人には、もともと八人の娘がいた。だが八俣大蛇という怪物が毎年やってきて、一人ずつ娘を食い殺していったのだという。

七人は、もういない。そして今年、最後に残った櫛名田比売クシナダヒメが喰われる番だった。老夫婦には逃げる力も、怪物を倒す力も残されていなかった。

素戔嗚尊スサノオは、大蛇がどんな姿をしているのか尋ねた。八つの頭と八つの尾を持ち、その目は赤く、巨大な身体には苔だけでなく杉や檜まで生えている。身体は八つの谷と八つの峰にまたがるほど長く、腹は血でただれているという。

人間が剣を持って正面から斬りかかるような相手ではない。だが素戔嗚尊スサノオは逃げなかった。櫛名田比売クシナダヒメを妻として迎えることを老夫婦に求め、その許しを得ると、すぐに大蛇を殺すための準備を始めた。

櫛名田比売クシナダヒメの身体は、素戔嗚尊スサノオの手の中で小さな湯津爪櫛へと姿を変えた。素戔嗚尊スサノオはその櫛を自分の髪へ深く差し込む。これで大蛇が現れても、彼女の身体を直接奪うことはできない。

次に素戔嗚尊スサノオは、老夫婦へ八塩折の酒を造るよう命じた。何度も繰り返して醸した、強い酒だった。さらに垣根を巡らせて八つの門を作り、それぞれの門に台を置き、その上へ酒を満たした器を並べさせた。

準備が終わった頃、山の空気が変わった。獣の足音とは比べものにならない重い振動が、地面の奥から伝わってくる。木々が揺れ、鳥が一斉に飛び立った。

やがて暗い森の向こうから、巨大な影が姿を現した。八つの頭が別々の方向へうごめき、十六の赤い目が闇の中で光っている。腹は血で赤黒く汚れ、長大な身体が木々を押し倒しながら進んできた。

足名椎アシナヅチと手名椎テナヅチは息を殺した。七人の娘を奪った怪物が、また目の前にいる。髪に差した櫛の中で、櫛名田比売クシナダヒメが何を感じていたのか、素戔嗚尊スサノオには確かめる術もなかった。

八俣大蛇は酒の匂いに気づいた。八つの首が、それぞれ八つの器へ向かって伸びる。巨大な口が酒へ沈み、ごくごくと飲み干す音が静まり返った山に響いた。

一杯では終わらない。大蛇は夢中になって酒を飲み続け、やがて八つの首が一つずつ重く垂れ下がっていった。赤い目が閉じ、巨大な身体が地面へ沈み込む。

素戔嗚尊スサノオは、眠った大蛇を見つめた。今しかない。腰の剣を抜くと、迷うことなく怪物へ踏み込んだ。

刃が鱗を割り、肉へ食い込んだ。眠っていた首が激しく跳ね、巨大な胴体が地面を叩く。素戔嗚尊スサノオは暴れる身体を避けながら、何度も剣を振り下ろした。

一つの首を斬る。続けてもう一つ。深く斬り込むたびに大量の血が噴き出し、足元を流れ、肥河の水まで赤く染めていった。

八俣大蛇の身体はあまりにも巨大だった。首を落としても尾が暴れ、尾を斬れば別の胴が地面を叩く。木が折れ、土がえぐれ、血と酒の臭いが混ざって辺りに立ち込めた。

それでも素戔嗚尊スサノオは手を止めなかった。七人の娘を喰った怪物の身体を、一つずつ斬り裂いていく。やがて八つの頭は動かなくなり、残る尾も次々と切り落とされていった。

最後の尾へ剣を振り下ろした、その瞬間だった。

甲高い音が響き、手に強い衝撃が走った。素戔嗚尊スサノオが剣を見ると、刃が欠けている。大蛇の肉の中に、剣を傷つけるほど硬い何かが埋まっていた。

素戔嗚尊スサノオは尾をさらに切り開いた。血に濡れた肉の奥から姿を現したのは、一本の剣だった。八俣大蛇の身体の中に、武器が眠っていたのだ。

素戔嗚尊スサノオはその剣を取り出した。自分の剣を欠けさせたほどの品だったため、特別な剣だと考え、天照大御神アマテラスへ献上することにした。この剣が草那芸之大刀、後に草薙剣と呼ばれる剣へつながっていく。

八俣大蛇は、もう動かなかった。毎年この日が来るたびに娘を奪われ続けてきた老夫婦の前に、初めて怪物のいない静けさが訪れた。血に染まった川の音だけが、森の中を流れていた。

素戔嗚尊スサノオは髪に差していた櫛へ手を伸ばした。櫛は元の姿へ戻り、そこに櫛名田比売クシナダヒメが現れる。八俣大蛇に喰われるはずだった娘は、生きて両親の前へ戻った。

その後、素戔嗚尊スサノオと櫛名田比売クシナダヒメは、二柱で暮らす場所を求めて出雲を歩いた。そして須賀の地へたどり着くと、素戔嗚尊スサノオはそこを気に入り、新しい宮を建てた。

高天原を追われ、一人で地上へ降りた素戔嗚尊スサノオは、出雲で妻と家を得た。やがて二柱の間には八島士奴美神ヤシマジヌミが生まれる。その血筋は何代も続き、後の大国主神オオクニヌシへつながっていった。

⇒【國學院大學 古典文化学事業】『古事記』八俣の大蛇退治①はこちら

伝承:大気都比売神オオゲツヒメの死から五穀が生まれる

『古事記』には、素戔嗚尊スサノオと食物の起源を結びつける神話もあります。

高天原を追放された素戔嗚尊スサノオが大気都比売神オオゲツヒメに食べ物を求めると、大気都比売神オオゲツヒメは鼻・口・尻からさまざまな食べ物を取り出して調理しました。

その様子を見た素戔嗚尊スサノオは、食べ物を汚して差し出していると思い、大気都比売神オオゲツヒメを殺します。

すると大気都比売神オオゲツヒメの死体から、蚕、稲、粟、小豆、麦、大豆が生まれました。神産巣日御祖命カムムスヒがこれらを取らせたことで、穀物や養蚕の起源へつながる神話になっています。

伝承:大国主神オオクニヌシへ与えた過酷な試練

素戔嗚尊スサノオは、大国主神オオクニヌシの物語にも登場します。

兄たちから何度も命を狙われた大穴牟遅神オオナムジは、根之堅州国にいる素戔嗚尊スサノオのもとへ逃れます。そこで素戔嗚尊スサノオの娘・須勢理毘売スセリビメと出会い、二柱は互いに心を通わせました。

素戔嗚尊スサノオは、大穴牟遅神オオナムジを蛇のいる部屋へ入れます。続いてムカデや蜂がいる部屋へ入れ、さらに野原へ矢を射込んで拾わせた後、その周囲へ火を放ちました。

須勢理毘売スセリビメの助けや鼠の導きによって、大穴牟遅神オオナムジは死を免れます。

最後には素戔嗚尊スサノオが眠っている間に、その髪を柱へ結びつけ、大きな岩で入口を塞ぎます。そして生大刀・生弓矢・天の沼琴を持ち、須勢理毘売スセリビメを連れて根之堅州国から逃げ出しました。

素戔嗚尊スサノオは二柱を追いますが、黄泉比良坂まで来ると追跡を止めます。そして大穴牟遅神オオナムジへ、持ち出した武器で兄たちを退け、大国主神オオクニヌシ・宇都志国玉神ウツシクニタマとなって国を治め、須勢理毘売スセリビメを妻とするよう告げました。

その後、大穴牟遅神オオナムジは大国主神オオクニヌシとして国作りを進めていきます。

素戔嗚尊スサノオの生まれ変わりは日本武尊ヤマトタケル?

素戔嗚尊スサノオの「生まれ変わり」として日本武尊ヤマトタケルを挙げる伝承があります。

この話が確認できるのが、中世に伝わった能《源太夫》です。熱田神宮に関する物語の中で、日本武尊ヤマトタケルを素戔嗚尊スサノオの生まれ変わりとして語ります。

素戔嗚尊スサノオと日本武尊ヤマトタケルを結ぶ大きな存在が草薙剣です。

素戔嗚尊スサノオは八俣大蛇の尾から剣を見つけ、天照大御神アマテラスへ献上します。その剣は後に草薙剣と呼ばれ、日本武尊ヤマトタケルの東征神話にも登場します。さらに草薙剣は熱田神宮の御神体として祀られています。

こうした草薙剣を通じた結びつきを背景に、中世には素戔嗚尊スサノオと日本武尊ヤマトタケルを重ねる伝承が生まれていました。

『古事記』『日本書紀』には、日本武尊ヤマトタケルを素戔嗚尊スサノオの生まれ変わりとする記述はありません。一方、中世になると両者を結びつける伝承が生まれ、能《源太夫》では、日本武尊ヤマトタケルは素戔嗚尊スサノオの生まれ変わりだと語られています。

つまり、日本武尊ヤマトタケルが素戔嗚尊スサノオの生まれ変わりという話は、古代の記紀神話ではなく、後世に伝わった物語です。

⇒【野上記念法政大学能楽研究所】能《源太夫》はこちら

素戔嗚尊スサノオゆかりの神社・祀られている神社

素戔嗚尊スサノオは、出雲をはじめ全国各地で祀られています。出雲では八俣大蛇や須佐の伝承と結びつき、京都や尾張では疫病・災厄を鎮める祇園信仰・天王信仰の神として広く信仰されてきました。

須佐神社

島根県出雲市にある須佐神社は、須佐之男命スサノオを主祭神とする神社です。

『出雲国風土記』には、須佐之男命スサノオがこの土地を気に入り、自らの名を取って「須佐」と名付け、御魂を鎮めたという伝承があります。同じ風土記には「須佐社」の名も記されています。

現在の須佐神社では須佐之男命スサノオ、稲田比売命イナダヒメ、足摩槌命アシナヅチ、手摩槌命テナヅチを祀っています。良縁・子孫繁栄、家内安全、厄除け、災難除けなどの御神徳が伝えられています。

素戔嗚尊スサノオの名前そのものと結びつく「須佐」の地に鎮座し、『出雲国風土記』にまで由緒をさかのぼれる神社です。

⇒ 須佐神社のご利益・属性・見どころを詳しく見る

八坂神社

京都市東山区の八坂神社は、素戔嗚尊スサノオを主祭神として祀っています。

古くから「祇園さん」と呼ばれ、素戔嗚尊スサノオは往古牛頭天王ゴズテンノウとも称されました。疫病を鎮める祈りは祇園信仰として広がり、八坂神社の祇園祭へ現在まで受け継がれています。

祇園祭は、平安時代に疫病や災厄が鎮まることを願って始まった祭礼です。『備後国風土記』逸文の蘇民将来説話にちなみ、「蘇民将来子孫也」の護符や茅の輪の信仰も伝わっています。

素戔嗚尊スサノオが疫病・災厄を鎮める神として広く信仰されてきた姿を現在に伝える神社です。

⇒八坂神社公式サイトはこちら

津島神社

愛知県津島市の津島神社では、建速須佐之男命スサノオを主神として祀っています。相殿には大穴牟遅命オオナムチが祀られています。

津島神社は「全国天王総本社」を掲げ、古くは津島牛頭天王社と呼ばれました。現在も「お天王さま」と親しまれ、疫病除け・厄難災除の神として信仰されています。

社伝では全国に約3,000社の御分霊社があるとされ、尾張を中心に広がった天王信仰の中心的な神社です。

素戔嗚尊スサノオと牛頭天王ゴズテンノウが結びついた天王信仰を現在に伝えています。

⇒ 津島神社のご利益・属性・見どころを詳しく見る

素戔嗚尊スサノオが祀られている主な神社

神社名 住所
八重垣神社 島根県松江市
須我神社 島根県雲南市
日御碕神社 島根県出雲市
武蔵一宮 氷川神社 埼玉県さいたま市
熊野本宮大社 和歌山県田辺市

八重垣神社では素盞嗚尊スサノオと稲田姫命イナダヒメを主祭神として祀っています。社伝では八俣大蛇から稲田姫命イナダヒメを守った佐久佐女の森が残り、その伝承をもとにした身隠神事も現在まで行われています。

須我神社は、素戔嗚尊スサノオが櫛名田比売クシナダヒメと暮らすために須賀の宮を建てた伝承を受け継ぐ神社です。「八雲立つ」の歌とともに、「日本初之宮」「和歌発祥の社」として由緒を伝えています。

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